アニマルウェルフェア(動物福祉)は、動物が不必要な苦痛やストレスを受けず、健康で幸福な生活を送ることを目指す考え方です。特に畜産業においては、動物の飼育環境や取り扱い方法の改善が求められています。
アニマルウェルフェアの定義
世界の動物衛生の向上を目的とする国際機関で、我が国も加盟している国際獣疫事務局(WOAH)の勧告において、「アニマルウェルフェアとは、動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態をいう」と定義されています。
アニマルウェルフェアと動物愛護の違い
動物愛護は、人が動物を愛し大切にすることであり、人から動物への感情が強く反映されています。一方、アニマルウェルフェアは人の感情とは関係なく、動物を主体として動物の状態を客観的に捉えようとする考え方です。
アニマルウェルフェアの基本理念:5つの自由
アニマルウェルフェアの基本理念として、「5つの自由」が提唱されています。これは、動物が以下の5つの状態から解放されるべきであるとするものです。
- 飢えと渇きからの自由:新鮮な水と適切な餌の提供により、飢えや渇きから解放されること。
- 不快からの自由:適切な環境(シェルターや快適な休息場所)の提供により、不快な状態から解放されること。
- 痛み、傷害、病気からの自由:予防や迅速な診断・治療により、これらから解放されること。
- 正常な行動を表現する自由:十分な空間、適切な施設、および同種の動物との交流により、自然な行動ができること。
- 恐怖や苦悩からの自由:取り扱いと環境の配慮により、精神的な苦痛から解放されること。
これらの自由を確保することで、動物の生活の質を向上させることができます。
アニマルウェルフェアが進んでいる国
世界的に見ると、ヨーロッパ諸国、オーストラリア、カナダなどがアニマルウェルフェア先進国であると言われています。例えば、EUでは2012年に採卵鶏のバタリーケージ飼育が禁止され、より広いエンリッチドケージや平飼い、放牧などの飼育方法が採用されています。一方、日本では約9割の採卵鶏がバタリーケージ(1羽あたりB5サイズ程度の大きさ)で飼育されています。
日本でアニマルウェルフェアが遅れている理由
日本におけるアニマルウェルフェアの取り組みは、欧米諸国と比較して遅れていると指摘されています。その要因として、畜産業の歴史が浅いことや、畜産物の輸出が少なく、これまで世界のスタンダードに合わせる必要に迫られなかったことなどが挙げられます。また、法的規制の整備不足や消費者の認知度の低さも影響しています。
アニマルウェルフェアの推進は、動物の福祉向上だけでなく、人間社会の倫理的進展や持続可能な社会の実現にも寄与します。そのため、消費者一人ひとりがアニマルウェルフェアに関心を持ち、理解を深めることが重要です。